Artist's commentary
伊58
“最初からがんばって最後まで戦ったんだよ。苦しくなってからだって、凄い重巡だって仕留めたし! 任務を全うして、全てが終わった後、無事に呉の母港に帰ったんだ” ■最初は何気なく聞き流していた。が、後になって何となく彼女の言葉が気になった。何か訴え掛けるような話し振りが、心に残ったのだ。提督は艦船図鑑を紐解いて伊58の項に目を通し……そして絶句して、全てを理解した。彼女はこの戦争を、特攻兵器“回天”の母艦として戦ったのだ。出撃する人間魚雷(嫌な名称だと提督は思った)をただ見送ることしかできなかった彼女の心中は、察するに余りある。重巡インディアナポリス撃沈を誇示する心情も痛いほど理解できた。彼女はこの艦を通常の魚雷で沈めている。そして更に何か運命の歯車が違っていれば、この戦果によって日本本土への核攻撃を阻止していたかもしれない。彼女は潜水艦としての矜持を最後まで失わなかったことを、提督に伝えたかったのだ。提督の頬を、涙が伝っていった。 ■池上司「雷撃深度一九・五」を読みながら。